(なんとまっすぐな目で人を見つめる娘だろう)
男は狼狽しながらも、彼女の瞳から自らの視線をはずすことができなかった。
なんとか落ち着きを取り戻した男は話題を転じた。
「ところで日本語はどちらで?」
「神戸で。9歳のとき父親の仕事の関係で神戸に。18の年まで過ごしました。父はポーランド生まれ、パリで母と出会いました。わたしはパリで生まれましたが、フランス語は10代の終わりにブラッシュアップしたくらい。日本語はわたしにとってもうひとつの母国語。」
「道理で。」
二人の間にはじめて打ち解けた空気が漂い始めた。
「さて、お名残り惜しいが、わたしはここで失礼しなければ。」