ブラームスと演奏会
 
 星陵フィルの皆様 ブラームスの交響曲第2番と第3番の演奏会を聴かせていただきました。昭和48年卆の野村和寿と申します。大井町の駅前の8階にあり、キュリアン大井町ホール。昨日までの雨が、晴れに変わり、まことに絶好の演奏会日和。私は仕事の都合で、後半のブラ3しか聴くことができませんでしたので、後半のことだけ書かせていただきます。
  みなさんは、きっと、「ここがよかったとか」、「ここがうまくいかなかったとか」で、一喜一憂していらっしゃるかもしれません。しかしながら、演奏会にはもう一つの主役、聴衆もいます。
 聴衆の聴く(もう1つの)演奏会レポートです。ブラームスの第3交響曲を第2交響曲と一緒に演奏するなんて、おそらくジョン・バルビローリという60年代活躍した指揮者が、よくウィーンフィルとやっていました。また最近では、よく、コリンデイビスが、ロンドン交響楽団とこれをやっています。それは、2年前がブラームスの記念イヤーだったことに起因しますが。
 とにかくこの交響曲につながりを感じさせるのは、表面的にはそれぞれの性格が異なるだけに難しいのですが、今日の演奏を聴いて、少しだけわかりました。つまり、和音をとても大事にしているのだなと言うこと。パッセージはいろいろな展開をするけれど、結局の所、楽章の終結で到達するのは、「ファラド」とかの和音です。例えば、4楽章の長い長いトロンボーンとかによるコラールもとても大事。その前の演奏的に難しいところは、つづれおりのようになっていて・・・すごく、極端にいうと、この最後の和音部分だけを、ブラームスは書きたかったのかもしれません。そのために、とても不思議なことをしていました。それは、たとえば、バイオリンとかチェロとかの弦楽器と、ホルンとかオーボエとかの、掛け合いや、ある時は、和音のハモリです。「オーケストラの各パートは知らず知らずのうちに、バランスよく、音が並んでいるな」と感じたこと。音のつながりも、毎回うまくいったとまではいわないまでも、2とか3楽章のvc・・・cl・・・fg・・・flといったように受け継がれていくパッセージが少なくとも、ブラームスには存在し、それがとてもいい効果を生んでいることはわかりました。
 ちょっと元に戻るようですが、ブラームスの3番の3楽章といえば、70年代、学生だったものにとっては、薄い新潮文庫に収められた、フランソワーズ・サガンの少女趣味というか、コバルト文庫のような小説『ブラームスはお好き』と、その映画化『悲しみよこんにちわ』の挿入音楽として有名です。あれはメロディーがとても甘美なんだけれど、じつは、メロディーでない、ほかの楽器のオブリガートしている時の、演奏者の至福感があるんだと思いました。だって、ファーストバイオリンの後ろに位置した昔並びのコントラバスとか、ビオラとかの至福感というものをよく感じることができました。
 それにしても、ホルンのソロの女性は「宝」ですよね。安定したソロを聴かせることがいかに大事か。また、オーボエの演奏家も大事。なにしろ、とちらないものだから、少なくとも、気分を壊すことがないし、もっともっとブラームスの世界に入っていけますね。
 さらに戻ります。2楽章はもう、ブラームスのクラリネット・コンチェルトですね。あの楽章のオブリカートの至福感は、弾いていた人はみんな感じたかもしれません。「その後のブラームスの作品、ホルン3重奏がビオラでも大丈夫だとか、クラリネットソナタや、最後の最後のブラームスのクラリネット5重奏につながるな」と感じてしまいました。(詳しく調べていないので本当の作曲年代はわからないのですが、そういう感じがしたという意味です。)色の変化する弦楽器と木管楽器のキャンバスに彩られた世界の中で、唯一、クラリネットだけが動く・・・という優雅な世界。ここの最後のトロンボーンのコラールも象徴的でした。
 ビバルディの四季がアナウンスの前にかかるというきわめて日本的なJR大井町のホームで、一組の初老夫婦が、演奏会のパンフをもちながら、 「ああ、今日はいい午後だったね」といっていたのを耳にしました。きっと関係者の親だとは思いますが、こうした聴衆に安らぎを与えることができたのも本当なんですよ。
 欲をいったらきりがないし、第一、自分でやってもいないのに、何もいえないのですが、もう1ついえば、弦楽器のダイナミックレンジがもっと広いといいなと思ったこと。こ利口にふるまえば、もしも、あのフォルテが最大であれば、ピアニシモ方向にのばせば、みかけ上のダイナミックレンジはとることができますが、その、こ利口をあえて、せず、ダイナミックレンジをそのままにしていたので、弦楽器だけとか木管楽器だけとか、金管楽器だけのところはとてもバランスがいいのだけれど、全部がミックスされた時の高揚感が、もっともっと、ブラームスの今度は混濁した、色を出してくれるのでは? 演奏会の後の深夜。
昭和48年卆  野村和寿

Date: Mon, 26 Apr 1999 03:32:40 +0900
Subject: [seiryo:02840] ブラームスと演奏会