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「チェコ プラハ 古楽器でボヘミアのバロック録音」
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96年6月25日から30日 野村和寿 |
6月25日夜21時25分、プラハ、インタ−コンチネンタル・プラハホテルに
無事到着。すぐにメッセ−ジをみると、21時30分に迎えにくるとある。 プロアルテ・アンティクア・プラハのトゥマ・トリオ・ソナタ集録音
6月25日取る21時30分−26日午前2時すぎ 26日夜20時30分−23時30分 27日夜22時−28日午前2時30分 すぐに会場の聖ミヒャエル・ルタ−派教会へと車を走らせる。教会はイ−ロベと は異なり、町のど真ん中にあった。今日から録音開始である。ルタ−派の新教の簡 素な作りの教会の内部を紹介しよう。 |
入口は、正面向かって左手にあり、木製の大きな扉を2つあけると、そこは、ま
ったく、外部とは異なる空間が現出する。入口はいって、5メ−トルの所に、祭壇 に向かって縦に10列の礼拝台、約50名が祈ることが出来る。録音では、祭壇の
真ん中にチェロそのすぐ後ろに、ものすごく小さいチェンバロ これは、バンベル グで作られた非常に古いモデルのコピ−。たてに、通奏低音 左右 左に第1バイ
オリン、右に第2バイオリンと並んでいる。トゥマというバッハの子供の時代のウ ィ−ンの宮廷で活躍した、作曲家のトリオソナタばかりを、録音しようというのだ。
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この作品は、完結明瞭、シンプルそのものといった風情。相変わらず、熱心な研
究に余念のない、第1バイオリンのリ−ダ−でもあるナ−ブラットは、いろいろなくふうをほどこしている。第1に第1バイオリンの俗にF字孔と呼ばれる部分が
、なるだけ、共鳴を多くして、低音の響きを出すために(本人はバスレフレックス という言葉を使った。オ−ディオみたい)大きく孔があいている。
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第2バイオリンは通常と同じ。なにしろ、この時期は、バロックと古典の間にあ
る微妙な過渡期の時期なので、楽器にもその過渡期的な部分が良く現れているみたいだ。このころの音楽は、非常に自由に行われていた。いつも演奏会では使うこと
のない、非常に小さなチェンバロ、キ−の数は驚くほど少ない。押してみると、少 しキ−の状態は思ったよりも重い感じで、押して一瞬間後に音になる。それが非常
にさわやかで、軽い音。チェロは、自称1500年代の古いチェロ、エンドピンを 録音の時はあえて、使うことで、楽器の低音を多く出すくふう。チェロとチェンバ
ロというのが、トリオソナタの基本的形態で、もっと、大きい編成にあると、バッ ソコンチヌオに、コントラバスも使われたとのこと。
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チェロの音域プラスチェン バロの音域がこの編成のバッソコンチヌオとしてはちょうどいいと判断している
。楽しい踊りの拍子の曲はいったい何に使われていたのだろうか? そんな思いを めずらせながら、教会といっても、非常に小さなチャペルに近い場所に座って聴い
ている。天井は、非常に高くて3階建てのような感じが全部吹き抜けと思ってもら うのがよかろう。音は軽やかに上にぬけていく。正面祭壇の背後の壁には、オルガ
ンがある。以前のパッヘルベルの録音では、このオルガンを使ってみたそうだ。
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教会の響きはちょうど、シャンペンの泡のようにスカッと上に伸びて消えていく
。それはそれは素敵な音、そして、驚くことに生で聴くのよりも、マイクを通した 方がずっと、その傾向は強くて、とてもきれいな泡のように聴こえてくるから不思
議である。 さわやかで、明るくて、濁りがまったくない純な音とでもい った風情。祭壇部分には、カ−ペットがひいてある。これを、2つのバイオリンだ
け、取り去り、また、チェロはまだ敷いている状態を選択した。
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下の石からの適度な反射が、マイクに向かって、エコ−の効果をしているようだ
。だから、広い空間で溶け合っている音は、とかく拡散されていくけれど、直近で 拾っているので、さわやかさを。増すのだろう。 教会はその性格上、来るものをこばまずといったところがあるので、当然ひどく音
響がいいのと裏腹に遮音が悪い。外の音は全部入ってしまう。小鳥の鳴き声、自動 車の排気音など、すぐにわかるものから、遠いいわゆる街が息をしているような
、非常に低い音でのよく耳をすますと聞こえてくるゴ−ッといった暗騒音まで、い ろいろな音が飛び込んでくるのだ。その度に録音は中断され、おそろしく長い中断
を余儀なくされる。
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聖ミヒャエル・ルタ−派教会に流れる空気はひんやりとしている。もう7回目を数
えるここでの録音は、6月25日火曜日 夜21時30分すぎに始まった 。1928年と30年にアルベルト・シュバイツァ−が、この教会を訪れ、バッハ
の演奏を行ったという、碑が残されている。この教会を入るとすぐの壁には、ドイ ツ語で、1511年にこの教会ができ、1781年にルタ−派の教会となったこと
が記されている。何度かの修復の後、現在の形になったのは1947年、入るとす ぐに、献金のお盆の中に、幾ばくかの紙幣とコインがあった。壁には
199、175というような数字、これは、礼拝の時の、賛美歌の番号の表示、席 は、1列に5人ずつで、全部で、8列、8列の90席。今回のトゥマの編成は、バイオリン、2本とチェロ、チェンバロという編成。この団体を主宰する、第1バイ
オリンのナ−ブラットによると、このトゥマ(1702−1774)は、ウィ−ン の宮廷作曲家としてバッハの子供の時代、バロックから、古典派がうまれるころに
活躍した、チェコ生まれの作曲家。 この教会に足を踏み入れたとたんに、ひんやりとした空気の中に、流れる、きわめ て清涼な音楽の調べ。
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第1バイオリンの楽器は、フランツ・アントン・ビルドの銘の入った1792年
の楽器。決して古い楽器ではないけれど、よく手入れの行きとどいた原型を保った 楽器である。弓は1700年代のイギリスの弓で、完全に弓のような形をしていて
面白い。チェロも古い楽器で、ザネッティ1593年の楽器、1900年代初頭に 修理したとある。ナ−ブラットによると、テレマンのような宮廷のスタイル、ギャ
ラント・スタイルを踏襲し、ソナタの中には、当時のドイツの音楽と全く違った方 向をもったフランスの宮廷の形式も斬新に取り入れているそうだ。2つのボイスと
バッソ、それもそのころは十分にチェロでよかった。チェンバロも加えると音域は かなりとれるからだ。バロックバイオリンは、F字孔が大きい。ソロで低音を多く
響かせるために通常のバイオリンとはF字孔(楽器の共鳴のために中心部分に両脇 に2つ設けられたの形をした孔)の大きさがかなり異なるのだ。
古楽器を扱う人は、それこそ、いろいろな楽器をもっている。そして、いつも手入 れをしながら、自分の楽器の中で、どれが、作曲者の年代にいちばんあっているか
を模索している。よけいなことかもしれないけれど、これらの時代が終了して、今 日まで、これらの楽器はどうやって、使われてきたのだろうか。僕は、きっと、こ
れらの楽器たちは、いちばん活躍した時代を終えてもなお、楽器として、宮廷の小 さなオ−ケストラなどで、ひっそりと使われてきたのではないかと想像する。
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第2バイオリンの父が、元祖プロアルテ・アンティクア・プラハの創始者で、や
はりチェコフィルのメンバ−でもあった。つまり、親から子へと、楽器は伝承され ている。楽器っていうのもすごいものだなと思う。第1バイリンの銘に記された
1900年代初頭の修理のマ−クだって、考えてみれば、もう歴史的なのだから。
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ここで、聞ける音は朝1番の音楽である。軽くて上品で、沸き立つような素敵な
調べ。難しくなくて、心をなごませうのに十分、もしかすると、仕事の終わった夜 遅くに静かに聴くのにも向いているかもしれない。 午後の8時半に開始された初日の録音は、終了したのは、午前2時すぎ。明日 、この教会ではミサがあるということで、もったいないことにせっかくのセッティ ングをマ−キングをしつつ撤収することになる。 |