「プラハの春でムター ロンドン響を聴く 」

 97年5月プラハの春でムター ロンドン響を聴く
 3,5月15日 指揮 サ−・コリン・デイビス ロンドン交響楽団
 バイオリン/アンネ・ゾフィ−・ムッタ−
 ベ−ト−ベン/バイオリン協奏曲
 ブラ−ムス/交響曲第1番
 思いがけずベ−ト−ベンのバイオリン協奏曲を聴く。
 絹のような光沢に、引き込まれる。目をつぶると広がるブ−ケ。
 あくまでも軽く、しかも音が流れ、しかも繊細。
 木管の特にオ−ボエの少しスモ−クのかかった音や、すこぶる好調なバイオリン群がすごい。もうぱわふるでしかもとても極上なる響き 。
  この曲は長大なのだな。目をつぶると、広がる音。 とても長いフレ−ジング。微妙に動き回り、特に弓の使い方。音はきわめて小さい力んでいない。思わせぶりでない。しかも形式ばっていない。 ベ−ト−ベンのコンチェルトは最初から期待にみちていた。 完全な2管編成の非常に構築感のある中で、長い長い導入部は、 輝きを放ちながらしかもさわやかに動いていった。
  ムタ−はずいぶんやせたようにみえた。 今日は湿度も高くしかも28度もあるので、 松脂のつきがよすぎる所を気にしてコンマスの譜面台にちょこっと かけたハンカチで3度も弦をふいた。音はとても小さい。 しかし、本当にクリア−でどこまでも通る音。 しかも思わせぶりなところもなく、とくに、長いフレ−ズでかけあがっていくときの、 デクレッシェンドの部分が光沢を放つ。
 どんどんと音を絞っていくときのわくわくするような不思議な気持ち。 思い音ではなく、軽すぎるのでもない。 特に長調のスケ−ルの使い型がめっぽううまくて、 しかも第1楽章と第4楽章にあるカデンツァは、 音楽がそのままの続きで聴こえる。これは希有な体験。 しかもバイオリンの神様的存在のクライスラ−のカデンツァを使い 自分の技術をみせつけるというよりも、もっとやっていることは 巧妙かつ大胆で、まるで、コンチェルトがバイロリンソナタに変身 したのではと思うほど。
  ベ−ト−ベンの描いたのはバイオリンを前に 出した一大叙事詩のように、大きい。あんなふうに弾けたらなんていいんだろうね。優しくなるような音、しかも昔昔、蓄音機がら流れるなつかしい、クライスラ−の流麗な感じも聞こえてくるのに驚く。