Valery Gergiev KIROV OPERA-I

 
 星陵MLの皆様。昭和48年卒の野村和寿です。今週土曜日はキーロフ オペラがまた当たりでしたので、おすそわけさせてください。
 キーロフ・オペラ(サンクトペテルブルク・マリインスキー劇場)
 リヒャルト・ワーグナー作曲 指揮ワレリー・ゲルギエフ
 オランダ人(幽霊船の船長)エフゲニー・ニキーティン(バス)
 ダーラント(ノルウェー船の船長)ゲンナジー・ベズズベンコフ(バス )
 ゼンタ(ダーラントの娘)ラリッサ・ゴゴレフスカヤ(ソプラノ)
 キーロフ歌劇場管弦楽団 上演時間2時間30分  東京文化会館18時開演
 今年初めてのオペラ  「さまよるえるオランダ人」。配役が少ないこと、1幕2幕3幕が通しで上演されるため、舞台装置が大きく言えば1つで済むなどの理由で、海外からの引越し公演では、上演される機会が破格に多いオペラ。前回のベ ルリン国立歌劇場でもバイロイト引越し公演でも聴きました。もう通算1 0回は聴いている計算になる。
 ゲルギエフ指揮のキーロフオペラの上演は、今までの上演を大きく凌駕 するのだろうか?東京文化会館懐かしい。最近は、ここに足を運ぶことは 少なくなったけれど、70年代ぼくたちは、ここを中心に音楽が回ってい た。北村さんに誘われて、文化の上にある視聴覚室に通ったし、地下のA リハや、Bリハで、早稲田のオーケストラの練習もしていた。
 コンクリートのうちっぱなしでできているとはいえ、2階3階4階5階 の両脇のバルコンにあたる舞台に向かって突き出た客席は、ちょっとした ヨーロッパのオペラ座のような風情。
 指揮者ゲルギエフの登場
 指揮棒一閃、音楽は締まりに締まり、6本のコントラバスはうなりをあ げて、嵐のシーンを演奏する。それは激しい波の打ち寄せる船のへさきにいるみたいに、過酷な厳しい風を予感させる。このオペラは今映画ではや っているゴーストものの先駆けのような作品。 降りようとしても船を降りられないで、海をさまよう船長と、船長を救お うとする若き貞淑な夢見る乙女ゼンダとの恋ものがたり。船長の宝めあて に我が娘を差し出す父、もともと幼なじみで、ゼンタが好きな若者
 猟師エリック  それに船乗りたち、港町で帰りを待つ奥さんたち  それにほんのちょっと出る乳母とか、ノルウエー船の舵手ぐらいしか出 ない。最初静かだったオランダ人の船長、実は亡霊が、ノルウェー船の船長の父親と交わす2重唱父親は「宝が手に入るぞ」と喜び、オランダ人の 船長は「生娘によって、癒されて、上陸できる」という二人の打算の2重唱から、音楽の輪郭が、ボウヨウとした蜃気楼のようなっ幻覚の世界から 一転、現実のものとなる。 声の大きさが最初登場人物が小さいのもどうも、この効果をねらっての算段らしい。
 輪郭のはっきりしたゲルギエフのオーケストラは、音楽の変わり目になる と、全く違う表情を、変わり目の最初歳からみせてくる。その変わりの見事なこと。輪郭はとても骨太で、輪郭を少し強調したごとくの、歌劇場 のオーケストラとは思えないほど、各パートとの考えがそろって、押し寄せる。不思議にも第2バイオリンでも、ビオラでも、一群となって、浮き上がってくる。金管は昔のロシアのオケのように、うるさいまでにがんがん鳴らすという感じではなく、入ってくるときにハモっているまんまでア ルデンテのパスタのように、芯が少しあって、腰のある感じ。 つくづく、「各パートが楽譜の指示を守って、各パートの特色を出すと、 とてもいい効果を出んだよ」と言わんばかりの見事さだ。ゲルギエフは、 斎藤秀雄メソッドであれば御法度であるはずの指揮ぶり。具体的に言うと 、日本の「はし」のように、親指と人差し指で、指揮棒をはさんで持ち、 短い指揮棒
 時には指揮棒なしで、右手を手首からぐるぐるまわしたり、「ぐーちょ きぱー」の「ぐーぱー」のように指示したり、左手は空手が空を斬るごと く、手刀でしきっている。指の先まで、力が均等に入るっていて、とても きびきびとしていて緊迫感を醸し出す。彼は今46歳、とても油がのりき っているのだ。  今おそらく世界中でいちばんのりにのっているキーロフの歌手陣は強力 な布陣。幕が上がるや船の骨格が上から大きくさがっていて、奥には海を 思わせる背景を映し出し、その前には、波のしぶきを出すイルミネーショ ンが、海の荒れを思わせる。ゼンタを熱唱するゴゴレフスカヤは、まだ若 いまるまると太った小錦のような体格と身のこなし。もともとはソプラノ といっても、メゾに近く低いところにいったときの声の太さといったらすごい、「*藤*のぶ」のように、「声がぼやけてしまい、何語歌っている のか皆目見当もつかなくなる感じ」ではなく、もともと高い音域は少々き ついのだが、どこまでも太い声を保ちながら、上っていくさまは圧巻。オ ランダ人を歌ったのはバスのエフゲニー・ニキーティン
 普段聴くオランダ人はわりと年配の歌い手が歌うのだが、とても若く声がばりばりと深々と出てくるから素敵そのもの。ほんのちょい役のゼンタ に思いを寄せる猟師エリックなんか、もうヘルデン・テノールそのもので 、これからどんどんワーグナーとか歌えるんじゃないか? つまり、ゲルギエフ一座は歌手からオーケストラそれを率いるゲルギエフ 本人と同じに、若く、やる気があり、しかもほどよい緊張感でまとまって いる。
もしかして、今の理想のオペラの形かもしれない。
 29日にチャイコフスキーの「スペードの女王」30日にベルディの「運命の力」を聴きます。そうしたらまた書きます。

Date: Tue, 25 Jan 2000 01:31 +0000
Subject: [seiryo:04361] Valery Gergiev KIROV OPERA