明け方、雨は上がったが、外界はまだどこか雨の風情。縦長の窓からやってくるカーテン越しの光は、ゆっくりと拡散し、霧のような眠気となって、かび臭い部屋の中を隈無く満たし始めている。 振一郎は・・・と、そんな一筆も悪くはないのだが、手入れが行き届かなくなってから、どれくらい経つのだろうか、京都大学にほど近い北白川、洋館風のその建物の名は紫苑荘。 遠い昔のはずなのだが、すぐそこを跨げば、学生時代に還れそう、と感じている御仁は多いのではなかろうか。もちろん静粛子もその一人である。