女は男の一瞬の迷いを見逃さなかった。 間合いを探ろうとした男のテンポに僅かな乱れが見えた、その瞬間、素早くスピードを上げた。 「いただきだわ」 が、その時のことだ、いきなり太陽が見えなくなると、向かいの硝子張りの高層ビルに反射し、新たな太陽となって現れた。 影の向きは、さっきとはまるで反対になった。 「もらった!」 オフィス街を舞台に争われる、国際影踏み選手権・通勤の部、男は辛うじて今年も優勝を手にした。