Opus.20
A letter

手紙

 遠く浅間を望む雪積もる夕暮れの山里は、静謐で満たされたコンサートホールの様、大気に広がるその光は、穏やかな管弦楽の響きを感じさせ、終章というより、やがて始まる星空の交響楽への序章の如し。生活の場では疎まれたりもするが、除雪によって生まれた膝ほどの高み、新雪の大山脈のようにも見える。除雪を逃れた草っ原には、それは静かな冬景色、そして子ども心の手に掛かれば、それはまた新たな命となる。
 ある科学者はこんな言葉を遺した。「雪は天から送られた手紙である」−中谷宇吉郎
 都会の人間には、それは天からの贈り物に相応しく感じてしまうのだが、手紙と読めるその能力と、返信という対話とを、また羨ましくも思うのだった。


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