Opus.27
A fragment

かけら

 硬く透明な日差しをはね返す厚い椿の葉は、塗りの剥げた粗末な板塀に映すその強い陰影で、おぼろげな記憶に形を与えようと誘い、そして、透き通る光と静かに世間話をしているかのような植木の並ぶ、開店休業の理髪店の扉を開ければ、そっと閉じこめられた、かびくさい日向の臭いが、そのおぼろげなものを、きっと触れるものにしてくれるに違いない・・・と思わせる街。
 渋谷、新宿と並ぶ山手線有数のターミナル駅から10分程歩けば、細い路地の向こうに銭湯の煙突を望む、その街の界隈。朝一番には軍手が飛ぶように売れるという、値札で埋まったその店の主は、さびれた商店街の復興について熱く語ってくれたが、今はしばし、そこで拾った幾つかのかけらを味わおう・・・よそ者はそう思った。


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