Opus.36
A remembrance

記憶

 柔らかく、しかしはっきりと光るスポットライトのような木漏れ日に導かれ、森に入った。逆光に輝き、忽然と現れた蜘蛛の巣は、たいていは 忽然とまとわりつき、そしてその触感は、嫌悪ではなく、惹起となる。漂ってきた淀みとドクダミ、湿った木立の、その臭いは一気に時間を巻き戻し、葉とも土ともつかなくなった地面を小枝でつつき、掘り、虫を探す息子の姿は、過去の自分との懐かしい対面となった。
  ミズキの葉を透かし森に差し込む光の入り口は、記憶の入り口でもあった。


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