「遅れてきた春」 0014
「ばあさんたち!エドナにケート、こんなところで一体…」
「やっぱり、お前だ、サカキシロー」 「ぼんやり何をお考えだい?おおかた女のことだろ」 ひどい訛りの英語だ。 男はいまいましさをおくびにも出さず切り返す。 「それよりどうした、スイスくんだりまで、また流れの料理人に舞い戻ったか?」 双子とは不思議なものだ。一人でしゃべるべきことを同じ音色の声で、しかし微妙に異なる音程で矢継ぎ早にしゃべる。半音いや四分の一音か、奇妙なエコーだ。 「希代の変人だな、フレスコバルディ侯爵…ところで例のものは?」 二人の後ろにはポルシェ911カレラが主人を待つ忠実なブラックレトリバーのように鈍い光りをはなって待っていた。二人は十字をきってから後部座席に乗り込む。 「シートを下げるぜ。狭くないか?このケースは置けるよな。それよりなんのまねだ、縁起でもない」 エンジンが一吠えすると同時にタイヤが悲鳴をあげた。 |