お銀もこの小学校の出、もう二十年以上も前のことである。食いぶちには到底満たない僅かの米と、ソバしかとれぬ山里は、銅の産出に湧いていた。あっという間に村は鉱山で働く荒くれどもと、一攫千金を狙う山師、都会からやってきた技師や勤め人で、見たこともないほど賑わうようになっていた。そんな荒くれの中に、一人の純な瞳を持つ男が居た。男は都会からやってきた美しい女を見初め、そして女の子が生まれた。奥ゆかしい父は、銅よりは格上、しかし金のようには奢るなかれと、その子に「銀子」と名付けた。活気溢れる街で親子は幸せな生活を送っていた。しかしそれもそう長くは続かなかった。他のたくさんの男と同じように鉱毒で父が倒れると、鉱山は閉鎖、そして女盛りの母も消えた。銀子十六歳の冬であった。
 そして今は昔、往事の賑わいに忘れ去られた田畑を、再び耕す者など居ようはずもないこの村、以前よりも貧しい寒村となってしまったのである。しかし銀子は戻って来た。
 お銀は幼なじみの偉丈夫に問いかけた。
「で、いつまでにやれっていうんだい」
「それがぁ・・・明日までに頼みてぇんだぁ・・・」
「・・・あたいに寝ずの仕事しろっていうのかぃ」
「俺も居る」
「あたいを暖めてくれるとでもいうの」
「ば、ばかいえっ」
「じゃ、あんたが何の役に立つんだよぉっ」
「・・・」
「いいかぃっ、あたいはねぇ・・・・・」
 お銀の目にその幼なじみ、松吉の瞳が写った。  (お父の目に似てる・・・)
「わかったよ、やるよ。でも、いいかぃ、あたいの言う通りするんだよ」
「よしきたぁっ、そうこなくっちゃよぉ」


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