お銀もこの小学校の出、もう二十年以上も前のことである。食いぶちには到底満たない僅かの米と、ソバしかとれぬ山里は、銅の産出に湧いていた。あっという間に村は鉱山で働く荒くれどもと、一攫千金を狙う山師、都会からやってきた技師や勤め人で、見たこともないほど賑わうようになっていた。そんな荒くれの中に、一人の純な瞳を持つ男が居た。男は都会からやってきた美しい女を見初め、そして女の子が生まれた。奥ゆかしい父は、銅よりは格上、しかし金のようには奢るなかれと、その子に「銀子」と名付けた。活気溢れる街で親子は幸せな生活を送っていた。しかしそれもそう長くは続かなかった。他のたくさんの男と同じように鉱毒で父が倒れると、鉱山は閉鎖、そして女盛りの母も消えた。銀子十六歳の冬であった。 前ページ <2> 次ページ |