分校に残った子どもは僅かに二人の六年生。山里の冬は早い、来春からは下宿して町の中学へ通うことになる二人は、村が雪に埋もれる前、一足先に町の小学校へ転入とのお沙汰であった。分校はもちろん廃校、明日がその最後の日であった。学舎が消えることで、何より淋しい思いをするのは大人たちだったのであろう、二人の為にと、村人総出での分校の卒業式が決まったのは、そんな経緯であった。しかしピアノがあれでは・・・今は村の役場の働き盛り、幼なじみの松吉は、蝉の声とともに知らせを託したが、何処にいるとも知れないお銀、その電報を受け取ったのは、木枯らし舞い始めた今日より三日前のことであった。  

「どうだぁ・・・」  
「うるさいねぇ、あたいが聞きたいのはピアノの音なんだよぉっ、あんたの声じゃないんだよ」
「すまん」
「ほらまたぁっ」  
「・・・」
「もうちょっとだよ」
「・・・」
「なんとかお言いよ」
「・・・」
「ふ、終わったんだよ、話して構わないよぉ」
「そっかぁっ! 終わったかぁ! お銀、恩に着るっ!」
「よしとくれよぉ」
「で、どうだぁっ」
「 あぁ、もうぴんぴんさぁね」
「・・・お銀、こいつぉ・・・」
「?・・・受け取れないよ、そんなもん。引っ込めな」
「そういう訳にはいかねぇ、受け取って貰わねぇと」
「貰うとっからはたんまり頂いてんだよ、貧乏人からは貰えないよ」
「んじゃぁ、俺たちの気持ちがぁ・・・」
「あたいだって、この学校の出だよ、俺たちも何もないだろ」
「・・・・・」
「あたいは寝るよ、あ〜疲れたぁ」


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