Opus.15
Five years after

五年後

 あれから五年が過ぎた。優しさと配慮感じられる地番の書かれたドアのその向こう、とある老人ホームの一室が、Tさんの今の住まいだ。うた(和歌)を作るのが好きなTさんは、時にふと湧いた思いを、あるいはしたためた思いを色紙に書き留める。その日の午前中は習字の時間、今ひとつ満足の行くようには書けなかったそうだが、○十の手習い?若輩には眩しく、美しい筆の動き。そして、午後はカルカッタのシタール奏者、キショール・ゴーシュさんらのチャリティーコンサート。生粋のインド音楽と、日本のメロディがTさんはじめ、訪れた聴衆に染み渡る。大方の仕事を終え、昼食後お宅に伺うと、開演まで一休みと横になられていたが、にこやかにお話をして頂いた。恐縮、感謝。
 1995年1月17日早朝、Tさんのマンションは倒壊、やっとのことで脱出、諸所転々とされ、今のお住まいへ。頂いたTさんの手記はこう結ばれている。「・・・疲れた巽を休めさしてもらい、再び飛び立ちたい、と願った。・・・」 Tさん、抱えられるものはあっても、僕にはもう、ゆったりと空を舞っているように見えましたよ。


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